① なぜ「組織・経営の視点」が重要か
「要件定義不足で失敗した」「現場が使わなくて失敗した」といった失敗パターンは、別のコラム(業務システム化の失敗 8 パターン)で詳しく解説しました。
しかし、現場レベルの失敗の多くは、組織・経営カルチャーに起因しています。要件定義が不十分なのは、要件定義する人材・時間を経営陣が割り当てなかったから。現場が使わないのは、現場の声を聞く経路が組織に存在しなかったから。
以下の 3 つの共通点を自社に当てはめてみて、ひとつでも思い当たるものがあれば、発注前にそこを整えておくと、プロジェクトの成功確率が大きく上がります。
② 共通点 1:経営陣が IT を「業者任せ」と考えている
経営陣は IT の技術的なことは専門家(=業者)に任せるべきだと考え、プロジェクトの経過報告すら受けない。発注後は現場任せで、トラブルが起きた時だけ呼ばれる。
▼ なぜ失敗するのか
業務システムは「業務のあり方そのものを再設計」する作業です。何を自動化し、何を手動で残すかは経営判断。業者だけで判断できる領域ではありません。経営陣が関与しないと、業者は「現場の言われたとおりに作るだけ」になり、業務改革にはつながらない。結果、「Excel をそのままシステム化しただけ」の高額ツールが完成します。
▼ 対策
経営陣が月 1 回以上プロジェクト定例に出席し、意思決定を下す体制にする。「IT のことは分からない」ではなく、「業務上の判断は分かる」観点から参加すればよい。業者は、経営陣に説明できる言葉を持っている(持っていない業者を選ばない)。
③ 共通点 2:プロジェクトの責任者と権限が定まっていない
要件定義フェーズで仕様の確認を依頼しても、「◯◯部長に確認してからお返事します」が繰り返される。1 つの判断に 2 週間かかり、プロジェクトが停滞する。
▼ なぜ失敗するのか
システム開発は、小さな意思決定の連続です。「この項目を必須にするか」「この帳票を残すか」など、1 プロジェクトで数百の判断があります。全てを経営会議にかけていては、スケジュールは倍以上に延び、業者側の工数も膨らみ、追加費用になります。「決められない」ことが最大のコストです。
▼ 対策
プロジェクトキックオフで、意思決定者(プロジェクトオーナー)を1名明確にする。その人は、ある程度の意思決定権限を事前に経営陣から委任されている状態にする。「ここまでは即決、これ以上は経営陣に相談」の線引きを決める。
④ 共通点 3:現場と経営陣の情報の断絶
経営陣は「現場は Excel で管理している」と思っているが、実態は Excel +手書きメモ+チャット+紙台帳。業者がヒアリングすると、経営陣の説明と現場実態が全く違う。
▼ なぜ失敗するのか
経営陣の説明をベースに要件を固めてから、現場実態が判明すると、要件の大幅見直し=追加費用になります。または、見直しせずに作って「使えないシステム」が完成します。
この断絶は、企業規模が大きいほど、組織が縦割りなほど発生します。「現場のことは、現場に聞かないとわからない」のは当然ですが、意外に見落とされます。
▼ 対策
発注先の決定前、または決定後早い段階で、現場メンバーと業者を直接会わせる。経営陣は「現場の実態を把握しきれていない前提」でプロジェクトに臨み、現場の情報を取りに行く姿勢を持つ。「現場主義」をプロジェクトの基本方針として共有する。
⑤ 発注前の自己診断リスト
以下に当てはまる項目がある場合、発注前にそこから手をつけることを強くおすすめします。
- 経営陣に「IT 投資は投資」という感覚が薄い(=業者を安く叩く対象と見ている)
- 社内に IT 担当者がいない、または兼務で片手間
- プロジェクトの責任者を 1 人に絞る発想がない(=部長級が複数で合議)
- 現場メンバーをプロジェクトに巻き込む工数予算が組まれていない
- 「IT ベンダーが提案してくれるでしょう」と待つ姿勢
- 社内のシステム投資に関する「意思決定スピード」の設計がない
合同会社 SKY は、お客様のプロジェクト推進体制づくりからご一緒させていただくこともできます。初めてのシステム開発発注で何から始めたらよいかわからない場合は、まずは体制の相談だけでも歓迎です。
まとめ:発注先選びより、自社の体制づくり
「どの IT 会社に発注するか」は、確かに重要です。しかし、その前段階として自社の受け入れ体制が整っているかの方が、プロジェクトの成否をより大きく左右します。
IT 会社から見ると、「お客様の社内体制の有無」はかなり早い段階でわかります。残念ながら、体制が整っていないお客様の案件は、受注しても成功確率が低く、業界内で評判が良いコンサル・SIer ほど辞退することが多いです。
自社の体制づくりが課題ならそこから、要件整理ができているならそのスタートラインから、業者を上手く活用しましょう。
